[27] すべては宇宙の采配──「奇跡のりんご」誕生秘話/木村 秋則(東邦出版)

 世の中には、不思議な話があるものです。

 とはいっても、私は、不可能といわれた無農薬・無肥料のりんご栽培に成功したことが、不思議だといっているわけではありません。
 おそらく、著者の木村氏のように、常識では考えられない夢の実現に一生を捧げた人は他にもいると思います。そして、苦難の連続の中で、夢半ばで力つき絶望から死を選んで亡くなった方もおられるでしょう。
 実際、著者も苦悩の中で死を決意し、自殺未遂をしたことを告白しております。私が不思議だと思うのは、なぜ、彼のように死の間際で「啓示」を受け、生還して夢を実現できる人がいるのか。その一方で、「啓示」を見い出せないまま、夢を果たせずに他界してしまう人がいるのか、ということです。

 

 著者は自分のことを、とくに信心深い人間ではないと、次のように語っています。
「私は霊感とやらがあるわけでもないし、スピリチュアルに興味があるわけでもありません。神様や仏様、そいう方面には、とんと疎いタイプです。リンゴがならなくなってからは、神棚を拝むのもやめました。初詣すら行きません。もう20年くらい行ってないな。津軽でリンゴ農家を営むふつうの59歳であることを最初にお断りしておきます」
 しかし、そういう彼が、死の淵で偶然「一筋の光」を見つけることになります。
 彼は死を覚悟して山に入り、持ってきたロープを枝に引っ掛けようと放り投げました。しかし、なぜかあらぬ方向に飛んでいってしまったのです。やむなく斜面を降りてロープを拾い上げた時のことです。彼の目に信じられない光景が飛び込んできたのです。突然目の前に、野生のりんごの木が3本立っていたのです。その木は、山の中なので誰も手入れをしていないはずなのに、実に堂々と生きていたといいます。
「私は吸い寄せられるように近づくと、根もとの土がふかふかであることに気がつきました。辺りには土のいい香りが漂っていました。私の畑は固く、そんないい匂いはしません」
 その時彼は、突然ひらめいたのです。
「うちの畑もこの自然の山のような状態を作ればいいのではないか……そうだ! この土と同じものを作ればいいんだ!」
 その「啓示」がきっかけとなって、4年後の春、りんごの花がすべての畑で満開になったのです。彼が無農薬栽培を開始してから、じつに11年が過ぎていました。

 

 では、どうして彼のように、極限状態の中で「啓示」が現われ、それに気づき救われる人と、そうでない人がいるのでしょうか。
 彼はスピリチュアルには興味がないと述べていますが、幼い頃から龍や幽霊を見たり、UFOに遭遇したり、数多くの「スピリチュアル」な体験をしています。
 また、この本の中には偶然とは思えないようなシンクロニシティ(共時性=意味のある偶然の一致)体験が数多く語られています。常識的に考えたら、あり得ない現象が次々と起きているのです。
 ただ、彼はその不思議な現象をごく自然なこと、当り前のこととして捉えているようです。何の疑いもなく、素直に受け入れているだけなのです。あえて「精神世界」とか「スピリチュアル」と言わなくても、日常そのものがスピリチュアル的な生活になっているわけです。
 彼は、決して「引き寄せの法則」や「開運学」の知識を持っているわけではありません。自分の運を良くしようという気持すらなかったでしょう。ただ、素直に物事をありのままに見ているだけです。全力でりんごの無農薬栽培をめざし、自然の理に従って生活を送っているだけなのです。
 セレンディピティ(幸運の連鎖)は、彼のように純粋な「無心の人」に訪れるのかも知れません。

 

 それにしても、著者のように死の淵から生還して夢を実現する人と、そのまま夢を実現できないで他界してしまう人がいるのは、どうしてなのでしょうか。単なる偶然なのでしょうか。それが運命だったといえば、そうなんでしょうが摩訶不思議なことです。
 ただ、一つだけ確実なことは、次のような彼のりんごに対する「思い」が、奇跡をもたらす大きな力になったのだと思います。
「赤ちゃんの泣き声、ただそれだけですべてを理解する母親のような気持ちで接すれば、きっと素晴らしい作物になってくれるはず。もし自分がりんごだったら、野菜だったらどうしてもらいたいか、それを考えるのが百姓として当たり前のことだと思います」
 彼は自分を「信心深い人ではない」と言っていますが、彼の心は決してそうではないことを、この言葉が表しています。たとえ形ある神仏を拝んでいなくても、生き物の声に耳を傾け、自然を敬う彼の生き方は、すでに「信心深い人」であるといえるでしょう。

 

【おすすめ度 ★★】(5つ星評価)



書評 精神世界の本ベスト100に戻る

関連ページ

[1] エンデの遺言/河邑厚徳+グループ現代
[2] 「原因」と「結果」の法則/ジェームズ・アレン
[3] 富を「引き寄せる」科学的法則」/ウォレス・ワトルズ
[4] 流れとかたち/エイドリアン・ベジャン
[5] 唯識十章/多川 俊映─
[6] 2045年問題/松田卓也
[7] トランスパーソナルとは何か/吉福伸逸
[8] 一流人たちの感性が教えてくれた「ゾーン」の法則/志岐 幸子
[9] ザ・マスター・キー/チャールズ・ハアネル
[10] 禅と食/枡野 俊明
[11] プロセス指向心理学/アーノルド・ミンデル
[12] ルーフ・オブ・ヘブン/エベン・アレキサンダー
[13] 異次元は存在する/リサ・ランドール
[14] ザ・シークレット/ロンダ・バーン
[15] 宇宙瞑想/横尾忠則対談集
[16] アップデートする仏教/山下良道、藤田一照
[17] ザ・ゲート/エリック・パール
[18] 100万回生きたねこ/佐野洋子
[19] 神様のホテル/ビクトリア・スウィート
[20] 風邪の効用/野口晴哉
[21] わら一本の革命/福岡正信
[22] ネイティブ・マインド/北山耕平
[23]生きる。死ぬ。/土橋重隆、玄侑宗久
[24] あわいの力/安田 登
[25] 里山資本主義/藻谷 浩介
[26]しらずしらず/ムロディナウ
[28] 奇跡の脳/ジル・ボルト・テイラー
[29] 祈る心は、治る力/ラリー・ドッシー
[30] 脳の神話が崩れるとき/M・ボーリガード
[31] なぜ、これを「信じる」とうまくいくのか/マシュー・ハトソン
[32] 超常現象 科学者たちの挑戦/NHK取材班
[33] 皮膚という「脳」/山口 創
[34] 魚は痛みを感じるか?/ヴィクトリア・ブレイスウェイト
[35] 食品の裏側──みんな大好きな食品添加物/阿部 司(東洋経済)
[36] 「臨死体験」が教えてくれた宇宙の仕組み/木内鶴彦(晋遊舎)
[37] かもめのジョナサン完成版/リチャード バック(新潮社)
[38] 「ビジネスゲーム」から自由になる法/R・シャインフェルド(VOICE)
[39] 思考のすごい力/ブルース・リプトン(PHP研究所)
[40] 脳科学は人格を変えられるか?/エレーヌ・フォックス(文藝春秋)
[41] がんが消えた──ある自然治癒の記録/寺山心一翁(日本教文社)
[42] 体の知性を取り戻す/尹 雄大(講談社現代新書)
[43] 宇宙のパワーと自由にアクセスする方法/ディーパック・チョプラ(フォレスト出版)
[44] 腰痛は怒りである──痛みと心の不思議な関係/長谷川淳史(春秋社)
[45] 野生の体を取り戻せ!/ジョン J・レイティ、リチャード・マニング(NHK出版)
[46] がんが自然に治る生き方/ケリー・ターナー(プレジデント社)
[47] 打てば響く/竹村文近、大友良英(NHK出版)──音の力、鍼の力
[48] 病は心で治す──健康と心をめぐる驚くべき真実/リサ・ランキン(河出書房新社)
[49] フューチャー・オブ・マインド──心の未来を科学する/ミチオ・カク(NHK出版)
[50] 目の見えない人は世界をどう見ているのか/伊藤亜紗(光文社新書)

●トップページ ● 書評 精神世界の本 ベスト100 ● スピリチュアル書店 ● 出版社&WEBマガジン ● トピックス