[26]しらずしらず──あなたの9割を支配する無意識を科学する/ムロディナウ(ダイヤモンド社)

 本書は、90年代に登場した新技術 「f MRI」(機能的核磁気共鳴画像法)を使って新たに発見された、「無意識の知られざる影響力」について書かれた一般読者向けの本です。

「f MRI」とは、活動している脳全体を、高解像度で細かくマッピングした三次元画像を映し出す画期的な装置です。この装置のすごいところは、あなたの脳から収集したデータを使って、あなたがいま見ている映像を再現できるだけではなく、いま脳のどの部位が活動しているかをリアルタイムで観察できるようになったことです。
 この「脳イメージング」によって、今までよくわからなかった脳と潜在意識のメカニズムが、神経科学的なアプローチによって少しずつ明らかになってきたのです。
 心の仕組みが、神経生理学的なプロセスですべて説明できるとは思いませんが、それでも非常に興味深い研究が次々と発表されています。

 

 では、この装置によって、どんなことがわかってきたのでしょうか。著者は、最新の実験結果をもとに次のように述べています。
「私たちはふつう、自分の行動の原因は自分でわかっていると信じている。しかし、ほとんどの場合、意識の外にある力が自分の判断や行動に大きな役割を果たしていることが多い」
 だから、厳密にいえば、本当は自分自身のことも、また自分が何をしようと考えているかも、全体の10%位しか知ることはできないと言っています。
 例えば、仕事や恋人を選ぶようなケースを取り上げて、次のように説明しています。
「あなたは、いまの仕事に就いたのは、やりがいがあったからだと信じているかも知れないが、実際には、もっと大きな名声を手に入れることのほうに興味があったのかも知れない。あの友達を好きなのはユーモアのセンスがあるからだと断言するかも知れないが、実際には、あなたの母親を思い起こさせる笑顔が好きなのかも知れない」
 もちろん、その原因が一つだけではないこともあるでしょう。しかし、厳密な実験によって、一番影響を受けた本当の原因が明らかになっても、ほとんどの人は決してそれを認めようとしないことが多いのです。
 研究によれば、無意識のプロセスの多くは、意識的な心ではうかがい知れない脳の領域で起こっているため、本人が自覚することは困難だと言っています。たとえ自覚することができたとしても、ほんの一部のことしかわからないのです。

 

 では「うかがい知れない脳の領域」で起こっているプロセスとは、いったいどんなものなのでしょうか。また、私たちの脳は、どのようにして現実を認識しているのでしょうか。
「哲学者は何世紀ものあいだ、『現実』の正体について、私たちが経験している世界は現実なのか幻影なのかという問題について論じてきた。しかし現代の神経科学によれば、人間の知覚はある意味、すべて 『錯覚』 とみなすべきだという。
 私たちは、知覚による生データを処理して解釈することで、この世界を間接的にしか認識しない。その作業は無意識による処理がやってくれていて、それによってこの世界のモデルがつくられている。
 例えば、ある光景を見たとき、自分は写真のような鮮明で輪郭のくっきりした映像を見ていると考えるが、実際にはっきりと見えているのはそのごく一部分であり、残りはサブリミナルな脳によって描き出されているのだ」
 つまり、私たちの意識は「世界」そのものを投影しているわけではなく、知覚に飛び込んでくる断片的なデータを「編集」し加工されたものを認識しているに過ぎない。しかも、「編集」作業を行う際に、私たちの脳は、その足りない部分を補うように、もっともらしい理由を「付け足して」作り上げてしまうわけです。

 

 著者は、だからといって悲観することはないと言っています。人間の知覚がある意味で「錯覚」ならば、その特性を逆に生かして、前向きな「錯覚」を持つことで、人生を豊かにすることもできる。実際、アップルの創業者スティーブ・ジョブスは、心に決めたことは何でも実現できると自分にも他人にも信じ込ませる状況──「現実歪曲空間」を作り出す能力に長けていたと述べています。
 ある研究によれば、きわめて正確な自己像をもっている人は、軽度の鬱に陥っているか、自己評価の低さに悩んでいるか、またはその両方であることが多い。それに対して、過度に前向きに自己評価をしている人は、むしろ正常で心身ともに健康であるという報告もなされています。

 

 最後に著者は、これらの研究結果からは、いくつかの重要な教訓が得られると述べています。
「第一に、自分と意見が食い違っている相手だからといって、その人が、自身の考えに明らかな間違いがあることを認めたがらない欺瞞的で不誠実な人間だとは限らないことを、心に留めておくことだ。そしてもっとも重要なこととして、自分の論法もそれほど完全に客観的ではないという事実を直視することは、誰にとってもためになるだろう」
 たとえ考え方や意見が違っても、相手の人格まで否定するようなことは避けたいものです。

 

【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)



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