[25] 里山資本主義──日本経済は「安心の原理」で動く/藻谷 浩介(角川書店)

[25] 里山資本主義──日本経済は「安心の原理」で動く/藻谷 浩介(角川書店)

「里山」というと、すぐに思い浮かぶのは、大自然に囲まれていて、きれいな空気と水、それに新鮮な野菜や果物に恵まれているというイメージです。

 しかしその一方で、里山では年々若者が離れていき、過疎化・高齢化が進んでいるという現実もあります。
私は都会で生まれ育ったので、気分転換に里山へ旅をしたいとは思いますが、そこでずっと暮らすことには少々抵抗があります。
 著者はそうした考えを持つ人を想定して、次のように語っています。
「勘違いしないでほしいのだが、現代人の生活を、江戸時代以前の農村のような暮らしに戻せといっているのではない。
 お金で買えるものは買えばいい。ただ、マネーだけが頼りの暮らしだけに依存するのではなく、この里山で、もっと安心、安全な底堅いシステムをつくろうというのだ。自然や人間関係といったお金で買えない資産に、最新のテクノロジーを活用させることで、それは実現させることができる」
 確かに、この本を読みすすめていくと、そこには私がイメージする田舎(里山)とはまったく違う姿が描かれている。もちろん、この中で紹介されている里山は、ごく一部の地域であるかも知れない。しかし、すでに木くずを使ったバイオマス発電、ペレット・ボイラー、エコストーブ、CLTパネル(直交集成型合板)など、数多くの最新技術がいくつかの里山で活用され始めている。森林を枯渇させず、自然を汚さない新たな経済活動が、ゆっくりだが着実に成果をあげてきている。

 

 著者は、今後の里山が持つ可能性について次のように述べている。
「そもそも、人間が生きていくのに必要なのは、水と食料と燃料であって、お金はそれらを手に入れるための一手段でしかない。
 手段の一つ? 生粋の都会人だと気づかないかもしれない。だが必要な水と食料と燃料を、かなりのところまでお金を払わずに手に入れている生活者は、日本各地の里山に無数に存在する。
 そうした生活を支えているのが、菜園や井戸、耕作放棄地、山に生えている木など、マネー資本主義では無価値とされがちな里山の資源なのだ。しかも、これに『木質バイオマスチップの完全燃焼技術』といった最先端の手段を付加することで、眠っている前近代からの資産は、一気に21世紀の資産として復活する」
 また、この里山資本主義が、リーマンショックによる経済危機や東日本大震災のような災害時に一つのリスクヘッジとしても機能できることを示唆している。
「里山資本主義とは、お金の循環がすべてを決するという前提で構築されたマネー資本主義の経済システムの横に、お金に依存しないサブシステムを再構築しておこうとする考え方だ。お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入る仕組み、いわば安心安全のネットワークを、予め用意しておこうというシステムだ」
 今後、少子化がすすみ、成長が鈍化されるであろう日本の経済が、この過疎地から生まれた里山資本主義のシステムによって救われる日が来るだろうとも述べています。

 

 いま都会では、就職難で苦しむ若者、リストラに怯える中高年、そして老後の生活に不安を持つ高齢者などが増えてきている。ビジネスマンの中には、ストレスからうつ病になり会社をやめる人もいる。一部の金持ちを除いて、程度の差はあるにしても、都会で暮らす多くの人々がこうした不安やストレスを抱えている。
 しかも、一生懸命働いても、食費、光熱費、住居費など、生きているだけで次から次へとお金が出ていく。確かにお金を払えばいろんなものは簡単に手に入る。しかし逆に、お金がなければ一日たりとも生活することができないのだ。
 だから、人々は追い立てられるように頑張って稼ごうとする。当然、ストレスも高まるだろう。けっきょく都会人は、心身ともに疲れ、里山の人々に比べて、それほど豊かな暮らしを送っていないということになる。
 里山で暮らす地元の人たちは、新鮮な野菜や穀物を食べ、食費もほとんどかからない。住居費、光熱費も都会に比べたら安くつく。だから都会人のように、あくせく働かなくてもよい。おまけに大自然の中で暮らしているので、ストレスも少ないというわけです。

 

 だからこそ、著者は都会で暮らしている人々に向けて、次のようなメッセージを贈っている。
「都会に住んでマネー資本主義にどっぷり浸かった人たちでも、そうした里山や離島と絆を持つことは可能ですし、気が向けば田舎に田畑を借りること、移り住むこともできる。日本にある豊かな資源を見直し、社会全体のバックアップとしてその資源を活用することで、安心、安全は増していくことでしょう。
子育ての時期だけ、里山に住むという選択肢もあるかもしれません。都会に住まなくてもインターネットを使って、どこでも仕事ができる人も増えているはずです。それならば人口の重心も、もうちょっと里山に移ってもいいのではないでしょうか」
 とはいっても、都会人が住むとしたら、相当な覚悟をもって行かないと少額で生活するのは難しいと思います。都会での便利な生活に慣れているので、つい面倒臭いことはお金で済ませようとしてしまうからです。
 ただ、私はこの本を読み終わって、「そんなに甘くはないだろうけど、里山で生活するのも悪くないな」という気持になってきました。

 

【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)



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