[11] プロセス指向心理学──現代心理学の統合理論/アーノルド・ミンデル (春秋社)

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 プロセス指向心理学は、ユング心理学者アーノルド・ミンデルが中心となって創始された心理療法で、「プロセス・ワーク」とも呼ばれています。

 従来の心理療法の枠組みを超えた治療であり、米国では、トランスパーソナル的(超個的)な視点を持った多くのセラピストに支持されています。

 

 この本を読み終えた感想をひと言でいえば、「このワークは、セラピストの力量・技量が結果を大きく左右するだろうな」 という印象でした。
 プロセス・ワークは、クライアント(患者)から発せられるシグナル(頭痛、緊張など)を拡大する方向で展開します。ちょうど、風邪で熱が出ても薬で下げようとしないで、熱が上がっていく様子を観察しているようなものです。
 解熱剤で熱を抑え込むと、その症状(シグナル)は消えても、自然治癒力がうまく働かず別の症状が出てきます。また、その原因がどこからきているのか分からなくなります。
 症状は、バランスを崩した人間にとって、「内なる自然」からのシグナルでもあります。
 だからプロセス(シグナルの変化)が動き始めるまで、その反応を促進させるわけです。従来の精神医学から見れば、セラピストがクライアントの「症状」を悪化させているように見えるかも知れません。「なぜ薬を飲ませて症状を抑えないのか」と不思議に思うことでしょう。
 たとえクライアントが一時的にどんなパニックを起こそうが、それを受け止める度量が求められます。「成長の過程における混乱」と捉えてサポートしていくわけです。人間の「心の自然治癒力」に対するセラピストの揺るぎない信念と力量が試されるワークです。
 その後は、クライアントの内なるプロセスが自然に変容するまで待ちます。もちろん、まったく何もしないで、ただ観察しているだけではありません。
 本書では、「無意識に発せられる言葉や体のシグナルを丁寧にたどってパターンを見つけるという手法で、クライアント自身がシグナルの意味を自覚するようにサポートしていくことが重要である」 と述べています。
 自己成長へと進化する「心の自然治癒力」に絶対的な信頼を置いているからこそできる療法とも言えます。

 

 プロセス指向心理学は、その名の通り、シグナルの「状態」ではなく、その「プロセス」に注目していくことに大きな特徴があります。ワークでは、クライアントのシグナルを固定的に考えず、柔軟にその変化に対応していきます。それによって、生きた変化と発展を注意深くたどっていこうとします。
 従来の「状態に注目する心理学」は、生きた素材を固定したパターンとプログラムに還元してしまう傾向があります。一般的には、セラピストが与えられたプログラムにしたがって、マニュアル通りにワークを進めていく方法が採られます。
 一方、プロセス・ワークでは、決められた手順やマニュアルはないので、セラピストには常に柔軟性やアドリブ(即興・自由度)が要求されてきます。
 それと最も大事なことは、クライアントとの信頼関係です。そのためには、セラピストの「存在感」が重要な鍵を握っています。体験に裏づけられた信念や感性が生み出す、いわば技術を超えた「人間力」のようなものです。
 特に、プロセス指向心理学は本来、精神病や臨死体験などSE(スピリュチュアル・エマージェンシー)を対象に行なわれたセラピーなので、変性意識や超感覚的体験などトランスパーソナル的な心的領域を深く理解していることが前提となります。
 また、多くのワーク体験を積むことはもちろんですが、セラピスト自身がプロセスのチャンネル(経路)をたどることで、統合化され、より意識的になり、目覚めていることが求められてきます。

 

 このワークでは、様々な心理療法を「包括的プロセス」の或る側面を浮上させる手法として捉えているので、他のあらゆる心理学とも共存でき、それらを柔軟に活用することができます。このセラピーが「統合心理療法」といわれるゆえんです。
 したがって、セラピストは他の様々な心理療法を理解することが要求されます。すでに学んだものとは異なるシグナルやチャンネルに対応できるように、自分の専門以外の方法を学ぶことが必要になってきます。
 ゲシュタルト・セラピー、交流分析、ロールプレーイング法、神経言語プログラミング、行動心理学、家族療法、グループ・セラピー、ダンス・セラピーなど、様々な心理療法が、どのシグナルの対応に最適な方法なのかを知っておく必要があるわけです。
 もちろん、すべてマスターできればいいのですが、これだけ多様なセラピーを完全にマスターするのは現実的には不可能です。それにセラピスト自身の性向や得意、不得意があります。藤見幸雄氏(セラピスト)が提案しているように、自分にとって対処しやすいチャンネル内でセラピーを行なうのが現実的だと思います。
 いずれにしても、プロセスがどのチャンネルで発現しているのかを見極める「研ぎ澄まされた観察力」が重要になってくることは言うまでもありません。

 

 いま、医学の分野では、対症療法を主体にした専門医療から「統合医療」への需要が急速に高まっています。心理学やセラピーの世界でも同じように「統合化」が進んでくると思われます。
 ミンデルは、次のように述べています。
「精神医学やソーシャル・ネットワーク、そして心理学における異なった学派における権力争いは、或る意味で検討違いである。というのもクライアントによって、必要となるセラピーが異なるからである。私たちが必要としているのは、異なる学派やセラピストにおける共通のプロセスや柔軟性をもっと理解することであり、それらを滅ぼすことではない」と。

 

【おすすめ度 ★★★★】(5つ星評価)



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