[10] 禅と食──「生きる」を整える/枡野 俊明 (小学館)

[10] 禅と食──「生きる」を整える/枡野 俊明 (小学館)

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 あなたは、いわゆる「悟り」について、どんなイメージを持っていますか?

 厳しい修行や瞑想、あるいは臨死体験などによって、内面的に「悟り」を体験して、それまでの煩悩や欲求がなくなったという人の話はよく耳にします。
 一般的に、そういう人は、どんなことに遭遇しても、決して煩悩に惑わされないだろうと思われています。
 しかし、私は内的体験でいわゆる「悟りの境地」に達した人が、日常生活のあらゆる場面で「何が起こっても大丈夫」になるとは考えておりません。状況がまったく変わってしまったり、異なった刺激にさらされてしまうと、どんな欲求であっても再び活性化する可能性があると思っています。
 今まで覚者だと言われる人に何人かお会いしましたが、いずれも再活性化の可能性がまったく無くなったようには感じられませんでした。だから、空海や道元のように名僧と言われる人でも、日々修行に励み、つねに自分を厳しく律していたのだと思います。特に禅宗では「悟り」について、きわめて厳しい見方をしています。

 

 禅の世界では、瞑想中に「超感覚的なビジョン」を見ることを「魔境に入る」と言っています。だから「仏陀や如来が現れたときは槍で突き刺せ」「仏を見たなら仏を殺せ」(臨済禅師)と教えているのです。
 これは、瞑想中に神格を持つものとの一体感を持った結果、「自分はすごい人間だ、仏陀になった」と思い込んでしまい、その人格が「結晶化」(固定化)してしまうことを防ぐためだとされています。
 悟ったと言う人のほとんどは、この「魔境」と呼ばれている体験であることが多いようです。そうした体験は、あくまでも一つの通過点であって、そこに留まってはいけないと諭しています。その体験にこだわることは「悟り」でも何でもないと言い切っています。
 もし仮に瞑想によって大悟(真の悟り)したとしても、忘我の「色即是空」の世界から、ちゃんと娑婆(日常生活)に還ってきて、その内的体験を肉体を持ったこの世界で実践することのほうが重要だと言っているのです。大悟と言えども、それは禅の原点であり、出発点にすぎないわけです。

 

 直接的には述べていませんが、この本には、そうした悟りへの過大な期待と傲慢さを戒めるための心構えと実践法が書かれております。
 タイトルだけ見ると、禅の食事(精進料理)のことだけが書かれていると思われるでしょうが、じつは食事を通して禅的な「生き方」を学ぶことができる内容になっています。
 著者は次のように述べています。
「禅といえば、座禅を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、禅では『食』をきわめて重要なものと考えています。
 禅の修行は『行住坐臥(ぎょうじゅうざが)』すべてに及びます。歩くこと(行)、とどまること(住)、座ること(坐)、寝ること(臥)の一切合切。つまり、日常生活のあらゆる『ふるまい』、すべての所作が修行だと考えるのです。
 食事は、誰でも毎日当たり前にしています。まさに、万人に共通する『行ない』『ふるまい』が食事をすることなのです。食事をつくること、食べること、そこに禅の教え、禅の実践がふんだんに詰まっています」(まえがきより)

 

 いかに日常生活での行ない、実践が大事であるかを強調しています。
 もちろん、この本は一般読者向けですので、あなたも禅僧と同じ行をやりなさいと言ってるわけではありません。複雑な人間関係とストレスに悩む現代人に、「もっとシンプルに爽やかに暮らしていける」生き方を、禅の「食」に対する考えをもとにやさしくアドバイスしています。
 それにしても「なぜ禅のお坊さんは、粗食でも元気で長生きできるのか」といつも疑問に思っていました。それに肌も驚くほどスベスベしています。
 私などは、あんな粗食では栄養失調にならないのかと余計な心配をしてしまいます。ところが心配無用とのこと。じつは胃袋が縮むのと同時に、消化吸収の効率がよくなって、少ない栄養をうまく取り込めるようになるそうです。
 もっとも、最近はゴルフ場やクラブなどでお坊さんをよくお見かけします。昔のように日々、切磋琢磨している修行僧は少なくなってきてるのかも知れませんね (^-^*)
 余談ですが、原始仏典によれば、お釈迦様は中道の立場から厳格な菜食主義を説かず、場合によっては肉や魚を口にしていたと言われています。

 

 仕事が忙しいことを言い訳にして、外食ばかりでほとんど料理もせず、掃除も1週間に1度しかしない私が言うのもおかしいですが、「悟り」というのは、日々の行ないを積み重ねていく中でしか現れてこないものだと思います。 

 

【おすすめ度 ★★】(5つ星評価)



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