[8] 一流人たちの感性が教えてくれた「ゾーン」の法則──至福の時を手に入れる14ヵ条/志岐 幸子(祥伝社)
ZONE(ゾーン)は、直訳すると「地帯」「地域」など或る境界の中の特定領域という意味ですが、この場合は日常的な意識とは異なった「非日常的な意識」の領域を差しています。
古来から滝行や呼吸法など宗教的な修行の時に体験する「変性意識」や「超感覚的意識」の領域も、一種の「ゾーン」と言えます。
スポーツ心理学では、このゾーンに入ることを「ピーク・パフォーマンス」と呼び、不要な視覚的・聴覚的情報はシャットアウトされ、感性が研ぎ澄まされて、時間や空間の感覚が異次元的になると言われています。
長嶋茂雄氏が現役の頃、絶好調の時は「ストライクの巾は広く、ボールは大きく、ソフトボールくらいに見えますね」と言っていましたが、まさしくこの感覚が「ゾーン」に入った時に体験する感性です。五感を超えた超感覚的な感性なので「第六感」と言う人もいます。
マラソン選手が心身ともに限界の状況になると「突然、体の痛みがなくなり、体全体が宙に浮いたように軽くなって気持ちよく走れた」というランナーズ・ハイの感覚も同じです。また「火事場の馬鹿力」と言われるように、命の危機的状況になると途轍もない力が出てくることがあるのもゾーンのなせる現象です。
この本はそうした「ゾーン体験」をしたスポーツ選手を中心に、ミュージシャン、俳優、芸術家、科学者など様々な分野の第一線で活躍しているプロフェッショナルの体験談を紹介しております。心理学的な説明の所は、やや荒削りな部分(特にトランスパーソナル心理学)はありますが、これは多分、編集者の要望に合わせて分かりやすくするために簡略化したのだと思います。
専門書と違って一般読者向けの本は、著者が書いた原稿に編集者が手を加えることはよくあります。専門用語の多くは日常の言葉に置き換えられることが多いので、著者の中には「少しニュアンスが違う」ということも出てきます。優秀な編集者ですと、必ずその分野の本を何冊も読んでいて内容を理解しているので問題はないのですが、なかには理解していないまま書き換えてくる編集者もいます。どんな編集者に出会うかによって、本の出来栄えは大きく違ってきます。
この本はうまく日常言語に置き換えられているので、心理学の専門用語が全く分からない人でも、スラスラ読めて理解しやすい本だと思います。
ところで、昔、雑誌の取材で文化人類学者の今西錦司氏(京都大学名誉教授・故人)にお会いした時に、先生から不思議な体験をお聞きしました。
「ある日、山で遭難しまして、3、4日、山中をさまよっていました。そのうち食べ物も尽きてしまい、意識も朦朧としてきたのです。『もうだめだ。俺は死ぬかもしれない』と諦めかけた時です。天から一筋の光が差し込んできて、私の前方を照らしたんです。しかもその光はずっと先まで伸びており、私をその方向に導いているような感じでした。私は無心でその光の道を辿って進んだところ見通しのよい所に出て、無事下山することができました」
当時は、こんな体験談を話したら学会から何を言われるか分からないということで、その時のインタビューではオフレコにいたしました。その後、他界されたことを知り、私はもう学会のことを気になさらなくてもいいのではと判断して、その体験談を書かせていただきました。この時の先生の体験は、まさしく「ゾーン体験」と呼んでもいいでしょう。
【おすすめ度 ★★】(5つ星評価)
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