[70]スポーツの至高体験/秋葉龍一(インタヴュー・プレス Kindle版 )

 先日、Eテレの「人間ってナンだ? 超AI入門」という番組を見ていたら、司会者が「人工知能がさらに進化していっても、人間にしかできないことは何だろう?」とゲストに質問をしていた。

 その質問に対して、レーサーの片山右京が「絵画や作曲はできても、『ゾーン体験』はできないだろう」と答えていた。ゾーンとは、集中力が極限まで高まって起こる意識体験で「至高体験」あるいは「フロー体験」とも言われている。なかでも一流のスポーツ選手が試合中に経験することが多い。番組の中で、右京もレース中に「ゾーン」に入ると、周囲の風景や音などが意識から消えて、感覚が研ぎすまされ、圧倒的にハイレベルなパフォーマンスを発揮することができたと話していた。

 

 本書は、そうした「至高体験」や「ゾーン」を体験した一流アスリートなどの証言をもとに書かれたものです。
 とくに、第6章以降の後半は、主に吉福伸逸氏(翻訳家、セラピスト)とのインタビュー形式で進められているが、彼とのやり取りが示唆に富んでいて興味深い。著者は、文献からはとうてい解ききれない「難題」を解決するために、オアフ島ノースショアに在住していた吉福伸逸氏を訪ねてインタビューしたのだと言う。吉福氏は、かつてトランスパーソナル心理学やニューサイエンスといった、いわゆるニューエイジ・ムーブメントを日本に紹介した人である。

 

 以下、彼とのやり取りのいくつかを列挙してみよう。

 

「ピークエクスペリエンス(至高体験)やゾーンは、過酷な訓練や緊張する試合中に起きることが多い。吉福はこのような意識状態に入る条件について、次のように語っている。
『ピークエクスペリエンスの大きな特徴は、世界を二分する境界線が消えることだ。合一体験というのは、自他の融合であって、この「他」というのは、人間だけではなく、森羅万象のすべて。僕たちは日常的に五感六感を使って、激しい選択をしながら自分の感覚を働かせ、情報を常に編集している。その編集作業の手を休めて、編集する人がいなくなるときがある。カルロス・カスタネダの本に、世界を止めるという概念がある。ストッピング・ザ・ワールド。それが一種のピークエクスペリエンスを生む』
 座禅や瞑想をはじめ宗教的修行というものも『編集する作業を休める』メソッドなのかもしれない。自意識が薄らぐというのは、あるがままの意識状態にめざめる前兆であり、そうなった臨界に意識の変容が起こり、ピークエクスペリエンスという相転移が起こるのであろう」

 

「この身心の制約を取り払うことを意図的に練習メニューに組み込み、それをもっとも徹底的に実践したのがスピードスケートの清水宏保である。彼は練習スケジュールに、自分を定期的に身心の極限まで追い込む時期を設定している。清水は次のように伝える。
『嘔吐はするし、足は動かなくなるし、しまいには記憶が遠くになって、目の前が真っ白になって視界から景色が消えてしまうんです。そこまで追い込まないと肉体も精神も破壊できないし、再生もされない。でもその“死点”みたいなものを越えると、一種の快感状態に入る』
 清水は新聞のインタビューで『光のラインが見える』と語っている。
『いつも、というわけではないんです。最高の状況で滑っている時は自分の周りが真っ白になる。外部の音は何も聞こえない。視野は30センチぐらいしかなく、滑るべきラインが光って見える。確かに不思議な世界ですね』

 

「このことに関して、吉福は次にように語る。
『生命の極限ぎりぎりまでの訓練を課すことで過剰なストレスが加わり、身体を防衛していた心のブロックが壊れる。自我が見通していた不可能だという自己イメージが砕かれ、新たな展望が切り開かれるのだ。これを「メンタルブロックの拡大」と呼ぶ。こういう状態になると、メンタリティのすき間ができて、自己イメージの締めつけがゆるくなる。ゆるくなると、一種のピークエクスペリエンスのようなものが起こる。ただ恐ろしいことだ』
 なぜ、恐ろしいのか。
『「死点を超える」という、死ぬほどの苦痛を味わう訓練は、自我の崩壊寸前の危険域であり、その恐怖はまさに「死ぬほど辛く」、常人はそれを耐えることはできない。だから日常の私たちは、そんな恐いところにゆく前に「エッジ」を自分で設定して、安全地帯にとどまろうとする。私たちは自己の能力をみずから限定することで、自己保全をはかっているのだ。だが、ときとして、私たちはその安全地帯から脱出しようと試みる。おそらく人間には、自分の限界を超えよう、進化しよう、自我を超えよう、自己成長しよう、自己の全体を生きようという本能というかアプリケーションが組み込まれ、いつも作動しようと待機しているのかもしれない」
 ちなみに、マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階である「自己超越」という段階があると言っています。

 

【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)


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