[7] トランスパーソナルとは何か──理性を超えた来たるべき人類の在り方/吉福伸逸(春秋社)

 今回紹介する本の著者である吉福伸逸氏とは、70年代後半に私がC+Fコミュニケーションズ(東京・新高円寺)に参加していた時に、ほぼ毎日顔を合わしておりました。じつは、吉福氏は去年の4月に他界いたしましたが、彼の生き方・考え方に共感した多くの人々がそれぞれの場所でトランスパーソナルの潮流を受け継いで活動しております。

 この本は、いわゆる「精神世界」に関わるすべての人に読んでもらいたい一冊です。ご自分の現在立たれている「位置」や役割を再確認する意味でも、非常に参考になるかと思います。
 まえがきに「対話という形式をとったのも、基本的には平易さを考えてのことである」と述べているように、インタビュー形式になっているので、非常に読みやすく分かりやすい内容になっています。ぜひ、一読されることをお薦めいたします。

 

 トランスパーソナルというと、一般的にケン・ウィルバーとスタニスラフ・グロフの名前が真っ先に浮かんでくると思います。
 しかし、よく知られているように、アブラハム・マズロー(人間性心理学)、チャールズ・タート(変性意識論)、ロベルト・アサジオリ(精神統合論)など数多くの研究者達の功績も重要な役割を担っております。また、60年代〜70年代にかけて、カリフォルニアを中心に展開されたニューエイジ・ムーブメント(ニューサイエンス、深層心理学、文化人類学、セラピー、禅、密教、ヨガ等)もこの理論が生まれた大きな要因になっております。
 したがって、トランスパーソナル心理学は、フロイド一個人が確立した精神分析とは違って、多くの研究者やセラピストなどが交流し実践しながら生まれた一つの「潮流」と考えたほうがいいと思います。いわば、ウィルバーとグロフは、それらを整理・統合させたという意味でトランスパーソナルの代表的人物として知られているわけです。

 

 この本全体の解説となると、ブログではとても書き切れませんので「まえがき」に、なぜこの潮流が出てきたのか、その要因が書かれていますので引用しておきます。詳しい内容を知りたい方は、ぜひ実物を手に取って読んでみてください。
「トランスパーソナルという概念が出現してきた最大の要因は、西洋社会──もちろんこれは西洋文明を謳歌している我が日本にも当てはまる──における行き過ぎた個人主義の行き詰まりと見てさしつかえないであろう。この個人主義の行き過ぎは、自分さえよければよいという風潮を生み、未来的展望はおろか、しかるべき伝統さえ共有しない混沌とした社会を生み出してきた。エコロジーの危機、核の問題、戦争、飢餓飢饉、性・人種差別など、現在、人類が抱えている大きな問題の大半は、個々人のこうした自分さえよければよいという、ちょっとした心理作用に源を発するものである」

 

 吉福伸逸氏が著になっている単行本は、そのほとんどが対談やインタビューで構成されています。翻訳の仕事が忙しいということもあるでしょうが、雑誌の連載をまとめたもの以外は、すべて対談やインタビュー形式の本ばかりです。
 私がC+Fコミュニケーションズにいた頃、よく彼の短文を見ることがありましたが、確かに文章は比較的堅いという印象を持っております。彼はUCバークレー校でサンスクリット語を勉強していたので、言語体系に対して厳密さを求めていたのかも知れません。私からみると哲学的な用語が多く少々堅苦しく感じました。そのことを自覚して敢えて分かりやすいインタビュー形式にしたのかどうか分かりませんが、全部を書下ろした本は一冊もありません。
 多分私の思い込みだと思いますが、彼は元々プロのジャズミュージシャンだったので「セッション」というコミュニケーション形式が気に入っていたのではないかと思います。文章に書かれる言葉は、どうしても部分的にならざるを得ません。それに本来、言葉は紙に書かれたものだけではありません。しぐさ、気配をともなって体全体から発せられます。それで、比較的セッションに近い対談やインタビューを選択したのではないでしょうか。
 私が実際に会った吉福氏の印象は、その「存在感」にあると思ってます。包容力というか「人間力」が漂ってきます。彼の翻訳本や雑誌等の文章を読むと、ややもすると彼の知的な面だけが強調されがちなので、少し残念です。そういう意味でも、しゃべり言葉で綴られているこの本は彼の「気配」を感じさせてくれるので、ぜひお薦めしたい本です。

 

 下記に翻訳書以外の「吉福伸逸著」の本を挙げておきます。

 

●「無意識の探険──トランスパーソナル心理学最前線」 ティビーエス・ブリタニカ 1988.1
 1987年当時のアメリカを中心とした研究者やセラピストへのインタビュー記事が一冊になっている。当時のこの人々の姿が記録されていることは貴重であるが、また、このトランスパーソナルを日本へ紹介した著者の姿勢が逆照射されているところが興味深い。
●「生老病死の心理学」春秋社 1990.7
 岡野守也氏がインタビューアー。ウィルバーの妻の死や、吉福本人の奥さんの病気、あるいはご本人の父の死、という相次ぐ出来事のなかで、著者にとっては、この1990年ごろというのは、まさに「生老病死」について考える機会であったのだろう。
●「処女航海──変性意識の海原を行く」青土社 1993.3
 本書は「異常体験の心理学」というタイトルで「イマーゴ」誌(1991年1月号〜1992年8月号)に19回にわたって連載した原稿に、事実関係を中心にいくつかの修正をほどこして仕上げたものである。

 

【おすすめ度 ★★★★】(5つ星評価)



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