[52] 世界の中にありながら世界に属さない/吉福伸逸(サンガ)

 世の中には、マスメディアに登場するような著名人ではないが、並外れた洞察力と存在感を持っている人がいるものです。そうした人物は社会に適応することを旨としていないことが多く、必ずしもメジャーになるとは限りません。私は長い間、出版に関わる仕事をしてきましたが、今までに、そうした人物を何人も見てきました。

 本書の著者である吉福伸逸氏も、そうした人物のひとりです。私は70年代後半から約3年間、吉福氏の主宰するC+Fコミュニケーションズに参加していましたので、彼と身近に接する機会がありました。当時、吉福氏はニューエイジやトランスパーソナル心理学の翻訳を中心に行なっていたので、自分の考えを直接綴ったものがほとんどありませんでした。インタビューや対談本は出版されていますが、本書のように整理された形で出版されたのは初めてであり、非常に貴重な本だと思います。

 

 彼は出版活動や講演と並行して、セラピーやワークショップによる「体験的な実感」を重視していました。
「人は頭で物事を理解してしまうと、そこで終わってしまうからです。そこから自分の経験に照らし返す人もいますが、それでも実際に生活の中でしっかりとした実感を持つ経験をしにくくなってくるんです。日常生活でも、セラピーのセッションでも、あらゆる瞬間に、一人の人間が感じたり、理解することをはるかに超えたもの、言葉を超えたものがあるんです。体験的に実感していないままだと、上滑りのような形でしかなくて、みずからにまったくおよんでこない。つまり、安全で安心な状態のままで、あらゆることを『わかった、理解した』と思って終わってしまうことが多い。自分が追いつめられて危機状態になったことがないんですね」

 

 だから、彼は自分のセラピーについて「人に嫌われるセラピー」だと言っています。
「ぼくらのセラピーは、当人が絶対に認めたくないことを認めてもらうということだからです。『あんたがあんたのような状態で、今そこにいるのは全部あんたのせいなんだよ』とぼくは言うわけです。どんな嫌なことが自分に起こっていたとしても、その嫌いなこと、それをやっているのは社会でも他人でもない、自分自身がやりたいからそういうふうになっているんだということなんです。そのことに根ざしていないと、セラピーやカウンセリングをやっても、傷の舐めあい、慰めあいのようなもので、そこから何かが立ち上がってくるわけではない」

 

 その際、相手と「本格的に出会う」ことが重要だと述べています。
「本格的な出会いとは、その人のアイデンティティや、社会的な肩書きや役割、立ち場と出会うことではないんです。一人の人間として、一人の生き物、生命体として出会っているということで、その人の持つ自己イメージ(仮面)との出会いは本格的な出会いとはいえないんですね。ほとんどの人が相手のイメージを持っていて、その人の特定の部分とだけ出会っています。その人の人間としての全体性とは出会っていないんですね。だから、裸のままでその人に出会う必要があります。その裸で出会うということをやるのが、セラピーやカウンセリングです」

 

 ここでは主にセラピーについて述べられている箇所を一部抜粋しましたが、他にも「人を揺り動かす力」「メロドラマの罠」「いびつな自己イメージ」「愚かであることの勇気」「世界の中にいながら世界に縛られない」など興味深いテーマが出てきますので、ぜひ一読をおすすめします。

 

【おすすめ度 ★★★★】(5つ星評価)



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