[4] 流れとかたち──万物のデザインを決める新たな物理法則/エイドリアン・ベジャン(紀伊國屋書店)

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 久しぶりに手ごたえのある本に出会いました。

 5年位前に友人から「コンストラクタル法則」の名前だけは聞いておりましたが、どんな内容なのか理解しておりませんでした。最近、ライターのJ・ペダー・ゼインと組んで一般読者向けに書かれた本が出版され、その翻訳本が出たというので、さっそく読んでみることにしました。 
 正直なところ、とんでもない法則が発見されて驚いています! 原理の発想そのものが単純なので、それほど凄い発見には見えませんが、じつは極めて革命的な発見だと思います。偉大な発見というのは、いつもシンプルな発想から生まれるようです。
 地球上の万物の全歴史が、たった一つの原理によって、誕生、発展を繰り返し、壮大な進化のドラマを綴ってきたのです。その原理が発見されたということは、驚くべきことです。
 彼が発見した法則は、生物だけではなく無生物にも「進化」があり、その過程で形作られるデザインには共通するパターンがあるというものです。この法則は「コンストラクタル法則」と呼ばれ、いわば生物学と物理学をつなげる統一理論と言えます。コンストラクタル法則が発見されるまでは、無生物の系と生物の系の進化を結びつける人は誰もいませんでした。
 しかも、この法則によって私たちが長い間、単なる偶然の一致にすぎないと思っていた事象に、予測可能なパターンを見て取ることができるようになりました。
 この本は、心理学と物理学の違いはありますが、壮大なテーマを探究しているという点で、ケン・ウィルバーの『万物の歴史』に匹敵する理論書だと思います。
 ちなみに、コンストラクタル法則(Constructal Low)は、コンストラクション(Construction=構築)とフラクタル(fractal=部分が全体と自己相似になっている図形)を組み合わせた造語です。

 

 著者のエイドリアン・ベジャンは、この法則を次のように説明しています。
「コンストラクタル法則は、生物の世界と無生物の世界をつなぎ、河川の流れや都市の流れだけではなく、人間の肺や血管のデザインまでを結びつける原理である」
「この世界にある動くもの流れるものは、すべて存在し続けるために(生きるために)進化するデザインを生み出す。しかも、その現象は生き物だけではなく無生物(河川や人工の冷却システムなど)にまで見られるもので、そのデザインは『コンストラクタル法則』に基づいて形成される」
と述べています。
 彼は生き物に見られる広い進化の傾向が、DNAを持たない無生物の事象も形作っており、この法則が、生物進化のデザインだけを扱っていたダーウィン進化論の限界を超えた、より普遍的なものであることを主張します。万物のデザインはコンストラクタル法則に支配されているというわけです。
 じつは彼のすごいところは、パターンの共通性に気づいたことではなく、なぜそうなるのかを解明したことにあります。
 ベジャンが「科学者は血管と河川流域の分岐パターンが予測可能であることは、ずっと以前から知っている。だが、なぜそうなるのかは解明できずにいた」と言っているように、彼だけがその謎を初めて明らかにしたのです。
 彼の原理の内容を簡略化して語ると、次のようになります。
「万物は絶えず動いているという意味で『流動系』と呼ばれる。そして何が流動系を通っているかが分かれば、その流れをより容易に動けるような配置を自然が生み出し進化していく。その過程で形作られるのがデザインであり、この原理によってデザインがどう変化するかが予測できるのだ」と。簡単に言えば、「すべてのものは、よりスムーズに流れるようにデザインされていく」 ということです。
 つまり、より効率的に流れを促進するために、あたかも知性を持っているかのように「自由」を求めて、新たな流路を作っていくというのです。(もちろん彼は「知性」の存在を認めているのではなく、あくまでも客観的な物理法則として述べているだけです)
 また彼は人間も自然の一部であり、人間から生み出された人工物や社会システムも「自然」の一部だという認識を持っています。だからこそ、冷却システムや交通システムなどの人工的なデザインも、自然界と同様にこの法則に支配されていると考えたのです。
 これは「人間と機械が一体化した種の進化の現れであり、自然界の他のどんなデザインとも同じ現象だ」と唱えます。飛行機や交通システム、都市、社会制度にいたるまで、およそ人間がつくるものはすべて、コンストラクタル法則に支配されていることを実証していきます。

 

 この本は本来「精神世界の本」中に入れるべきではないのかも知れません。では私がなぜ取り上げたのかと言いますと、彼の発見が統合的あるいはホリスティックな視点から生まれたものだからです。
「自然界には孤立して生きてるものは何一つない」という言葉からも、彼が従来の「差異」に目を向ける科学の在り方に批判的なことが分かります。彼は現代の科学は細分化によって全体像が見えなくなっていると指摘します。彼の統合理論によって、バラバラになっていた各専門分野がルービックキューブが解けた瞬間ように、この原理によって見事に結びつきつながったのです。
 この本は科学書とは言っても一般向けの本ですから、読み進んでいくと面白いテーマが次々と出てきます。
 たとえば「スポーツの進化を説明する物理理論」の章では「体重が同じなら、カラダが細く背の高い選手のほうが陸上でも水中でも、速度の点ではっきり有利なのだ」ということや「最速の短距離走者は黒人で、最速の泳者は白人であるのはなぜか」という問題にも挑戦し見事に解明しています。
 また人間のDNAから銀河系宇宙まで、なぜ螺旋形のデザインになっているのかという理由も明らかにしています。
 彼はたぶん無神論者だと思いますが、彼の次の言葉は印象的だったので引用しておきます。
 「何がコンストラクタル法則を働かせているのだろう。端的に言えば、わからない。科学では第一原理と言われる類のもので、他の法則からたどり着いたり引き出したりすることはできない。ただそこに存在している自然界を支配する物理法則なのだ」

 

 最後に彼の少年期のエピソードを紹介しておきます。この法則を発見したきっかけが、すでにベジャンの少年期の体験にあったことを物語るエピソードです。
 彼の父は獣医だったので、卵の内部を照らし出して胚が成長しているかどうか確認できる検卵用の箱を持っていました。
「当時10代だった私は、日々目の前で繰り広げられる血管の成長系の場面を驚異と畏敬の念を持って見つめた。卵の殻の内側に血管が伸び、やがてびっしりと広がっていった。私はそのとき見えていた樹状構造のデザインが、学校で描いていた色塗りの地図の河川流域のデザインと同じであることにも気がついた」と述懐しています。
 のちに彼がコンストラクタル法則を発見した時に、「今思えば、父の検卵箱は、私たちの周りのいたる所のあるデザインを照らし出していたのだ」と述べ、この時の体験が後に彼をコンストラクタル法則の発見へと導いていったのだと考えられます。

 

【おすすめ度 ★★】(5つ星評価)



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