[39] 思考のすごい力──心はいかにして細胞をコントロールするか/ブルース・リプトン(PHP研究所)

 去年の5月、女優アンジェリーナ・ジョリーが「将来の乳がん予防のために、乳房切除手術を受けた」というニュースが流れました。あの時私は、彼女の決断はやむを得なかったのではないかと思っていました。

 というのも、彼女は遺伝子検査で乳ガン遺伝子のBRCA1とBRCA2が発見された時、医者から「乳がんになる確率が87%」と言われたそうです。彼女でなくても87%の確率があると言われたら、誰でも怖くなって手術を決断するかもしれません。
 ところが、私はこの本読んでから、がん遺伝子について誤った認識を持っていたことに気づかされました。「遺伝子がすべてを支配する」という遺伝子決定主義は、最新の生物学では、すでに時代遅れの考え方だったのです。
 実際には乳がん遺伝子が見つかっても必ずしも発症するわけではなく、乳がんの症例のほとんどが遺伝子とは関係なく発症していることを知ったのです。

 

 著者のブルース・リプトンは、遺伝子と病気の関係について次のように述べています。少し長くなりますが引用させていただきます。
 「ヒトゲノム計画が科学のトップニュースとして報じられていたのと同じ頃、『エピジェネティクス』という、新しくかつ革新的な生物学の分野がスタートしていた。『遺伝子を超えたコントロール』という意味のエピジェネティクスは、生命コントロールのメカニズムに対する私たちの理解を根本から変えるものだ。
 エピジェネティクスがこの10年間に解明したところによれば、遺伝子として受け渡されるDNAの青写真は、誕生の時にはまだ確定していないらしい。遺伝子は運命の女神などではないのだ! 環境による影響、たとえば栄養分やストレスなどの感情が、基本的な青写真に手を加えることはないにしても、遺伝子を変化させることがわかってきた。
 乳ガン遺伝子のBRCA1とBRCA2が発見された時、メディアは大騒ぎした。実は乳がんの症例の95%は遺伝子とは関係なく発症しているのだが、それについては詳しく報道されなかった。大多数のがん患者の悪性腫瘍は、環境によってエピジェネティックな変化が引き起こされたために生じたもので、遺伝子の欠陥によるものではない」
 彼は遺伝子が、ある病気に関係するからといって、それが必ずしもその病気を引き起こす原因になるわけではない。むしろ「環境こそが問題なのだ」と言っているのです。

 

 では、なぜ「遺伝子がすべてを決定している」という考え方が一般的に広まってきたのでしょうか。この考え方はいったいどうやって生じたのでしょうか。リプトンは、その理由について次のように述べています。
「『種の起源』の中で、ダーウィンは『遺伝的な』因子が世代から世代へと引き継がれることにより、生まれてくる子供の形質がコントロールされるのではないか、と示唆している。ダーウィンの影響はとてつもなく大きなものだったので、科学者たちは近視眼的に遺伝物質(遺伝子)の探求に走ってしまい、遺伝物質こそが生命をコントロールする、と信じてしまったのだ」
 いわゆる「遺伝子決定主義」といわれているドグマです。その後、人間が持つ遺伝子すべてのカタログの作成、すなわちヒトゲノム計画が進められ、このドグマへの「信仰」はさらに高まっていきます。
 しかし、ヒトゲノム計画は、予測に反して意外な結果をもたらしたのです。12万個以上の遺伝子があるだろうという予測に反して、ヒトのゲノムには2万5000個の遺伝子しかないことが判明したのです。なんと、ヒトゲノムと並行してマウスのゲノムを解析した結果、マウスと人間の遺伝子の数はほぼ同じだったのです。人間は複雑な生物で、人間のかかる病気も複雑なものですが、どうしてそれほど複雑なのか、こんな少ない遺伝子ではとうてい説明することができないことがわかってきました。
 その後の研究によって、病気の発症には、前述したようにエピジェネティックなメカニズムが係っていることが判明したのです。実際、今ではがんや心血管障害の患者のうち、遺伝子が原因になっているのはわずか5%にすぎないこともわかっています。むしろ、がん促進遺伝子やがん抑制遺伝子のなどのスイッチをオン・オフさせるのは、遺伝子外部の環境要因(食生活、ストレスなど)による働きなのです。
 この本のタイトルにもあるように、思考や心の持ち方なども重要な環境要因の一つです。彼は最後に次のように述べています。
「心が変化すると、本当に身体に影響が現われるのだ。心という環境要因が遺伝子の働きに影響を及ぼしている。人生をコントロールしているのは遺伝子ではなく思考(心)である。人間は遺伝子に操られるだけの無力な生化学的マシンにすぎない、という『信仰』が追いやられ、私たちは自分の人生や世界を創り出せるだけの力を持った創造者である、という理解が広まりつつある。私たちはそんな時代に生きている」

 

 なお、著者の2弾目の本『思考のパワー──意識の力が細胞を変え宇宙を変える』ダイヤモンド社(左下写真)が翻訳されています。こちらも、ぜひ一読することをお薦めします。最新の細胞生物学について非常にわかりやすく解説した一般向けの本です。

 

 

【おすすめ度 ★★★★】(5つ星評価)



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