[37] かもめのジョナサン完成版/リチャード バック(新潮社)

 私が初めてこの本に出会ったのは20代半ばの頃で、今から40年余り前のことです。当時、インドから帰ってきたばかりのヒッピー?の友人から薦められたのがきっかけでした。

 あれから40年も経っているので、細部については忘れかけていましたが、読んでいるうちにその時の感覚が少しずつ蘇ってきました。ただ、今は当時の時代背景(ニューエイジ・ムーブメントの興隆期)とは違うので、今回は少し違った視点から読むことができました。

 

 この物語は1970年にアメリカで出版され、主にカウンターカルチャー(対抗文化)を志向する西海岸の若者たちに支持されました。その後、次第に全米に広がり1,500万部の大ベストセラーとなったのです。日本では、1974年に五木寛之の訳で出版され、やはり120万部の大ヒットを記録しています。
 その時は3部作構成でしたが、今回、40年ぶりに第4部(最終章)を加えた完全版が出版されたので取り上げてみました。
 追加された最終章には、ジョナサンがいなくなってからの世界が描かれています。弟子のかもめたちは、次第に彼を神格化し、教えを形骸化させていきます。いまやジョナサンのメッセージは過去の「伝説」となり「おとぎ話」になってしまったのです。そして、ジョナサンの実在すら疑う者も出てきました。

 

 もともと、この物語はそうした形骸化した教えや惰性化した日常生活に疑問を持ったところから始まっています。ただ食べるためだけの生活を惰性で生きるのではなく、自由な生き方を模索し、自分の能力の限界にチャレンジして新たな世界を発見しようとしたのですから。
 ジョナサンは次のように語っています。
「私たちは、ここで学んでいることを通じて、次の新しい世界を選びとるのだ。もしここで何も学ぶことができなかったら、次の世界もここと同じことになる。それはつまり、乗り越えなきゃならん限界、はねのけるべき鉛の重荷が、もとのままに残ってしまうことなんだ。
 人生には、食うことや、争うことや、権力を奪いあったりすることなどより、はるかに大事なことがある。それは、生きることの意味や生活のもっと高い目的を発見して、それを行なうことだ」
 そう確信したからこそ、ジョナサンは何度失敗しても、諦めずに挑戦し続けることができたのです。だから、教えは決して与えられるものではなく、自ら実践して発見していくものでした。

 

 しかし、最終章の結末で「奇跡」が起こります。
 若いかもめアンソニーは、絶望感の中で、誰も信じなくなったジョナサンの奇跡を証明するために、死を覚悟で自らの限界に挑戦するのです。そして突然、彼は600メートルの高さから海に向かって急降下していったのです。若き日のジョナサンがそうしたように。
 ここでは奇跡の詳しい内容は語らないことにします。ぜひ、ご自分で確認してみてください。

 

 ところで、いまやニューエイジ・ムーブメントは商業化、ファッション化され、一般社会に浸透しつつあります。「精神世界」や「スピリチュアル」への関心が高まり、本書も自己啓発書の一つとして読まれているようです。
 しかし、この本は「自己啓発」という枠では収まりきれない内容を含んでいます。より高いステージ(霊性)へと向かう人間の「魂の進化」について語られていると思うからです。
 人間は、決して限られた能力しか持たない肉体の中に閉じ込められている存在ではありません。この本では、人は誰でも命がけで自らの限界に挑戦することによって、新しいステージ(高次元世界)に生まれ変われることを示唆しています。
 それが、たぶんリチャード・バックがこの本に託した読者へのメッセージだと思います。なぜなら、ジョナサンは特別な存在ではなく、この本を手にしているあなたもジョナサンになれるはずだから──。

 

【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)



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