[31] なぜ、これを「信じる」とうまくいくのか/マシュー・ハトソン(ダイヤモンド社)

 著者のハトソンは認知神経学者であり、どちらかというと神秘現象や超常現象に対して懐疑的な人です。いわば現実主義者であり、プラグマティスト(実用主義者)といってもいいでしょう。 その彼が、多くの心理学研究から、どうやら「信じる」という行為には「不思議な力」があり、実際に効果をもたらしていると述べています。

  ハトソンは当初、多くの人々がお守りや験(げん)を担ぐなど「迷信」といわれる非合理的行為を行なっているのはなぜだろうか、という疑問を持っていました。まえがきで、彼は次のように述べています。
「地球上に暮らすほとんどの人は信心深い。大勢の人が迷信を信じ、スピリチュアルな生活を送り、超常現象にもさほど驚かない。誰だって本当は、運や縁起の悪いもの、神のご意志といった不思議な力を信じている。『そんなの、信じちゃいないよ』と言う人間にかぎって、実は信じてたりするものなのだ」 
 例えば、受験生が試験当日、成績優秀だった母親のアクセサリーを身につけたり、合格祈願のお守りを持つなど「縁起を担ぐ」のも、人間はどこかで不思議な力に期待しているからだといわれています。
 アメリカでは、迷信や思い込みなど非合理的な行動とみられているものでも、その有効性を確かめるために調査や実験が盛んに行なわれています。彼は、そうした研究をもとに心理学的なアプローチによって検証していったのです。

 

 では、信じるという行為が本当に効果をもたらすものなのか。実際に信じる人に恩恵を与えるものなのか。彼は数多くの事例を挙げながら解明していきます。
「ゴルフのパターを渡し、『これはプロゴルファーのベン・カーティスのものだ』 と教えられた被験者は、何も言われなかった被験者よりも、38%も多くパットを決められた」
「被験者に、エネルギッシュでいたい日には赤い勝負服を着てもらう。すると、ほとんどの人が、実際にいつもよりもテンションが上がって元気になったと報告してきた」
 前者は「感染の法則」といわれ、カーティスのパターを使えば彼の技術も「感染」し、パットの能力を高めるという思い込みの結果です。前述の母親のアクセサリーを身につけた受験生と同じものです。
 後者は「類似の法則」といわれ、赤い色が血や炎の色と類似しており、気分を高揚させ興奮作用があるという「思い込み」があるからです。
 彼は、さらにツキ(勝負運)や病気(治癒)についても事例を挙げています。
「被験者にそれぞれ幸運のお守りを家から持ってきてもらう。半数の被験者にはお守りを身につけてもらい、残りの被験者には別室に置いたままにしてもらう。するとお守りを身につけ 『ご加護のあった』 グループのほうが、トランプの神経衰弱で成績がよかった」
「神が心臓発作の回復を助けてくれると信じると治癒が早まるが、心臓発作が神のせいだと信じると治癒が遅れる」
 この他にも数多くの実験事例を引用しながら、彼は、確かに「信じる力」には効果が認められると結論づけています。
 ただし、彼は「自分は科学者なので、神やオカルト的な力が実際に働いたかどうかはわからない」と前置きしたうえで、次のようにも述べています。
「たとえ、それが神秘的な現象ではないにしても、心理学的な観点から見ても 『信じる力』 には効果があると言わざるを得ない。私は無神論者なので断言はできないが、成功している人は自分の運命を神の思し召しと呼び、自分の仕事を天職といっている人もいる。自分の成功を宇宙が待っていると思えば、どんな困難も乗り越えられると信じ、どんな苦労も成功のためには必要と感じられかも知れない」
 いかにもプラグマティストらしい見解といえます。実際に効果があるものなら、神秘的現象(神のご加護)でなくてもいいじゃないかというわけです。

 

 彼は「お守り」や「信じる力」について、進化心理学者のマーティ・ヘイゼルトンとダニエル・ネトルの「エラーマネジメント理論」を引用しながら、やはり心理学的な視点から、その効果について解説しています。
「エラーマネジメント理論によれば、人類は進化の過程で、2種類の誤りのうち、より安全な誤りのほうを選択してきたことになる。『危険なものを危険でないとみなす誤り』 よりも 『危険でないものを危険とみなす誤り』 のほうが、生存に有利に働いてきたからだ。つまり私たちは、『蛇を枝と見間違える誤り』 よりも 『枝を蛇と見間違える誤り』 を選択してきた。本物の蛇を見逃す危険に比べたら、見間違えて縮み上がるバツの悪さはとるに足らないことだ。お守りを信じないで起こるリスクに比べたら、間違いかも知れないが信じるほうがいい。
 また、この理論は、何よりも「コントロールの錯覚」を生む。私は長年、飛行機に乗る前に必ず機体の外側に両手で触ることにしている。そのようなささやかな儀式が、機体を水平に保ち、垂直降下を防ぐ効果があるかといえば、その可能性は限りなくゼロに近い。ところが潜在的な利益は大きい。ちょっとした 『おまじない』 によって 『自分は飛行機の墜落を防いでいるのだ』 という感覚が持てる。不安は和らぎ、心も落ち着く」

 

 最後に「皮肉屋」といわれるハトソンが、運命やシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)をまったく信じない人について語っているので引用しておきます。
「普段、自分の理性に自信たっぷりの無神論者でさえ、己の人生を理解することとなると、自慢の理性も錆びつくらしい。『自分は魂や超自然的な力、神など信じない』 と答えた34人を対象に、ある心理学部の学生がオンライン調査を行なった。そして、彼らにとって転機となった出来事や人生最悪の時期について思い出してもらったところ、回答者のほとんどが 『その出来事は何かの目的があって起きた』 と考え、それが運命的な出来事であるかのような回答を残した。学生らは、それらの被験者について 『とても無神論者とは思えない』 と驚いていたという」
 著者も自分は無神論者だと言っていますが、ひょとしたら、この回答は彼自身の気持ちを表しているのかも知れません (^-^*)

 

【おすすめ度 ★★】(5つ星評価)



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