[30] 脳の神話が崩れるとき──科学が導く「心」の正体/M・ボーリガード(角川書店)

 本書は、超常現象や神秘体験の真偽について、信用できる科学的根拠を探している人におすすめの本です。

著者のマリオ・ボーリガード は、モントリオール大学の准教授であり「神経科学と意識の研究」において世界トップレベルの科学者です。その彼が、数多くの大学や研究所などで行なわれた科学的研究をもとに、従来の神経科学では説明のつかない「心の現象」を深い洞察力によって検証しています。
 以前は非科学的だといわれてきた現象──催眠療法、瞑想効果、臨死体験、幽体離脱、超常現象などについて、世界中から最も信頼できる証拠(実験結果)を集め、科学的な視点から分析し、実証しようというものです。
 ボーリガードは、この本を書いた意図を次のように述べています。
「もし本当に人間の精神を科学的に理解しようとするならば、この問題に関連する証拠の数々を無視することなどできはしない。真の懐疑論者ならば、公平かつ客観的に事実を追究するものだ。先入観に囚われることなく、執着心を持たず、事実と向き合うものだ」

 

 一般的に、神経科学者たちは著者の主張に懐疑的な人が多く、精神(心)について次のような見解を持っています。
「人間の思考パターンや精神状態というものは、脳内の電気的インパルスの刺激によるものだ。精神(心)は脳内で起こる電気活動と科学プロセスの産物であり、霊的なものや非物質的なものを考慮する必要はない」
 前々回でも述べましたが、いわゆる「唯脳論」です。いまだに多くの神経科学者が、こうした考えのもとに心と脳の関係を捉えています。彼らの中には「脳とは、肉でできたコンピューターである」(マービン・ミンスキー)とさえ言っている科学者もいます。
 こうした考え方に対して、著者はアメリカの心理学者、ウィリアム・ジェームスの「プリズム仮説」を引用しながら反論しています。。
「脳が損傷を受けたことにより人の精神機能に変化が起こったからといって、精神や意識が脳から生まれているという証明にはならない。プリズムを白い光が通過すると、分光が起こって様々な色のスペクトルが生じる。だが、これはプリズムがあるから光が違って見えるのであり、プリズムそのものが光源になっているわけではない。それと同じように、脳は人間の精神や意識の状態を受容し、変容させ、発現するが、そこが光源というわけではないのだ」
 したがって、彼は心(光源)が脳(プリズム)から生まれていると断定するのは、科学的にみて独断的誤謬であると言っています。脳は受信装置に過ぎず、心(光源)そのものではないのかも知れないのです。
また、物理学者たちが量子現象の発見によって、古典物理学や科学的唯物論を離れざるを得なくなってから、ほぼ1世紀になるが、いまだに多くの神経科学者たちが「唯脳論」(科学的唯物論)に執着しているのが信じられないとも述べています。

 

 この本の中では、数え切れないほどの研究事例や実験結果が引用されています。おそらく200例は超えているでしょう。これだけ多くの「証拠」を集められると、さすがに圧倒されます。懐疑的で疑り深い人には、ぜひ読んでもらいたい本です。
 しかし、これほど多くの証拠を出しても、いまだに多くの神経科学者は「精神や意識は、脳活動が生み出しているものにすぎない」と言い続けているのが理解に苦しむところです。
 ただ、こうした様々な神秘現象は、従来の科学的パラダイムの枠を超えてしまうものもあるので、納得させるのは難しいかも知れません。どんな証拠を見せられても、過去のパラダイム(枠組み)に縛られている限り、否定する科学者は必ず出てきます。

 

 最後に、少し長くなりますが、著者が読者に向けて語っているメッセージを引用しておきます。
「神秘体験は、唯物論的科学者の持つ世界観では決して推し量ることのできない、とても重要なものを私たちに教えてくれる。それは『人は、脳や肉体に閉じ込められた互いに別々の存在なのではない。むしろ、他者と、そして宇宙全体とオーガニックに繋がっているのだ』ということである。
 本書で触れてきたような神秘体験からは、私たちが脳や肉体に閉じ込められているのではなく、深い精神レベルにおいて森羅万象と、心と物が生まれ出る源流と繋がっていることがうかがえる。神秘体験とは『個はそれぞれが同じひとつの全体なのだ』ということを、つまり『ホールネス』を示す、直接的で直観的な理解なのである」

 

【おすすめ度 ★★】(5つ星評価)



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