[21] わら一本の革命──「エデンの園」の復活を夢見る自然農法/福岡正信(春秋社)

 やはり、自ら実践した人の言葉には重みがあります。

 この本は、科学的な農法を根底から覆して、試行錯誤を積み重ねながら辿り着いた「自然農法」の実践者がつづった自伝的手記です。現在、有機農法に携わっている方なら、一度は読んだことがあると思います。
 横浜税関の植物検査課に勤め、植物病理の研究者だった青年が、なぜ突然、人智を否定し、科学を否定するようになったのか? そして山に入り、科学的な農法を全面的に捨て、人間の知恵を使わない「自然農法」を実践するようになったのか?
 その経緯については、本の中に詳しく書かれていますので、ぜひ一読してみてください。ここでは、彼の「一切無用論」の信念に基づいた「自然農法」について簡単に触れておきます。「一切無用論」というのは、簡単に言えば、人間は何もしないほうがいいという考え方です。

 

「この30年の間に、私はただひとすじに、何もしない農法を目ざした。ああしなくてもいいのじゃないか、こうしなくてもいいのじゃないか、という考え方、これを米作りと麦作りに徹底的に応用してきた。その結果、田も耕かさず、草とりもしない、農薬も肥料も使わなくて、米と麦を毎年連続して作ることができるようになった。しかも、収穫量が一般の科学農法に比べて、少しも遜色がない、というところまで来た」
 田を鋤かなくても、自然に土が肥えるような方法さえとっておけば、健全な稲を作ることができる。余計なことはいっさい必要ないというわけです。まさに、究極の「断捨離(だんしゃり)農法」ともいえます。
「結局、田を鋤く必要はなかったんだ。化学肥料をやる必要も、農薬をやる必要もなかったんだ。そういうものが必要だと思わせたのは、価値があるような、効果があがるような条件を先に作っているということなんです」
 人間が、その知恵と行為でもって、何か悪いことをする。悪いことをしておいて気づかないままに放っといて、そこから悪い結果が出てくると、それを懸命に訂正する。そして、訂正したことが効果をあげると、いかにもそれが価値ある立派なもののように見えてくる。そうしたことを、人間は飽きもせずやっているというわけです。まるで、自分で屋根瓦を踏んで割っておいて「水もりする、天井が腐る」と言って、あわてて修繕して、立派なものができたと喜んでいるのと同じだと皮肉っています。

 

 私がこの本を読み終わって、まず最初に感じたことは、「人間を悩ましている問題は、その原因を根源(本質)にまで遡ってみなければ、決して解決できない」ということでした。その場しのぎの方法で、行き当たりばったりに対応しても、次々と新しい弊害が出てきて、結局、根本的には解決されたことにはならない。これは、農業に限らず、あらゆる問題に通じることです。
 それは、原因を部分的にしか見ていないことに起因していると思います。今の世の中が、あらゆる点で専門化されてきたために、全体的な把握ということが難しくなったということです。
 全体(本質)を把握することによって、根本的な解決への方向性がはっきり見えてくる。だからこそ、彼が多くの失敗を重ねながらも、30年以上もの間、まったくブレないで目標に向かってチャレンジすることができたのでしょう。

 

 この本を読みすすめていくと、私も含めて人間がいかに愚かな生き物なのか思い知らされる気がしてきます。策を労して余計なことをやればやるほど、人間は自分の首を絞めている。崖っぷちに立っていても気がつかないのだから、崖から落ちてみなければわからないのではないか。そんな絶望的な気分にもなってきます。
 著者は、この本から何かを学ぼうとか、役に立てようとかいう発想じたいを徹底して否定しているように見えます。「こんな本を読んでいる暇があったら、つべこべ言わずに『自然』の中に入って、直接聞いてみるがいい」と言っているような気がします。
 だが、一切無用と否定され続けても、著者の言葉から「やさしさ」や「温もり」が伝わってくるのは、なぜだろうか。彼が、わら一本に込めた「愛」が、読者の心に強く響いてくるからだと思います。彼のゆるぎない信念が「母なる自然」から生まれたことを考えれば、当然のことかも知れません。

 

【おすすめ度 ★★★★】(5つ星評価)



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